TCFD提言に沿ったリスク認識と戦略への活用

第一生命ホールディングス株式会社

業種:金融業、保険業

掲載日 2023年5月24日
適応分野 産業・経済活動

会社概要

第一生命ホールディングス株式会社

第一生命ホールディングス株式会社は生命保険会社、損害保険会社等の経営管理を行う金融持株会社であり、国内のみならず、市場の拡大が見込まれるアジア・パシフィック地域そして世界最大の生命保険市場である米国の計9カ国に事業を拡大している。当社は、社会の持続性確保を事業運営の根幹と位置付け、それに向けた重要課題の解決にこれまで以上に取り組む方針である。

気候変動による影響

2016年のパリ協定発効により、環境問題、とりわけ気候変動への対応は国際社会全体で取り組む課題であるとの認識が高まっており、当社グループにとっても、気候変動への対応はお客さまの生命や健康、企業活動、社会の持続可能性などに大きな影響を与えうる重要な経営課題と認識している。

取り組み

当社グループでは、2018年9月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に賛同し、2019年度よりシナリオ分析を開始した。当社グループとして、気候変動によって、下記のような影響が中長期的にもたらされる可能性があると認識し、RCPシナリオ(2.6、8.5)(注1)、NGFSシナリオ(注2)などを用いて分析した結果に基づき、事業会社・機関投資家としてのコントロール策・事業としてのレジリエンス(強靭性)を高める取組みを推進している。

リスク
  • 温暖化に伴う熱中症や感染症の増加による保険金・給付金支払額の増加
  • 台風などによる水害発生の増加による保険金・給付金支払額の増加
  • 炭素税導入、市場・社会環境変化による資産の毀損、新技術開発、消費者行動の変化への対応などの環境変化への不十分な対応による企業価値低下
機会
  • 再生可能エネルギー事業などの、気候変動問題の解決に資する投融資機会の増加
  • 資源効率の高い事業インフラの導入による事業コストの低減

シナリオ分析:気候変動が生命保険事業に与える影響

当社グループでは気候変動が生命保険事業に与える影響として、保険金・給付金支払いに関するリスク把握の取組みを進めている。

気温上昇に対しては各分野で研究が進められており、これらに関する文献が多くの研究機関などにより発表され注目度がますます高まっている。当社グループではこうした研究結果を調査・分析するとともに、お引受けしている保険商品の特性を踏まえたうえで、リスクの網羅的な把握と影響の定量化に取り組んできた(注3)。

2020年度は第一生命の死亡保険金支払実績をもとに、夏季の気温上昇による健康被害の増大に着目した分析を実施し、全国の最高気温と死亡発生の関係性を推定した。そこに将来の気候シナリオを仮定したうえで保険金支払増加額の試算を行い、結果を開示した。

2021年度においては、気候シナリオをSSP5-8.5へアップデートする(注4)とともに、グループ内の国内生命保険会社3社(第一生命、第一フロンティア生命、ネオファースト生命)における死亡保険金支払増加額・収支への影響も分析した。加えて、夏季の気温上昇による入院への影響分析を実施した。具体的には、第一生命の過去の支払実績を分析し、最高気温との関係性を推定したうえで、死亡と同様の気候シナリオを前提とした場合、入院増加率(暑熱との関連がみられた疾患のもの)を試算した(図、下表)。

気候変動により生命保険事業に与える影響試算
項目 2050年代 2090年代
死亡の発生(2010年~2019年との比較) 0.2%程度増加 0.8%程度増加
死亡保険金増加額(2021年度の国内生命保険会社3社の死亡保険金支払実績(約5,800億円)をもとに試算) 13億円増加(収支影響額は3億円) 45億円(収支影響額は12億円)
入院給付金増加額(2019年度の国内生命保険会社3社の入院給付金支払実績(約600億円)をもとに試算)(注5) 1~2億円

本試算では、暑熱による保険金・給付金の影響は限定的な結果となった。このように、今回の結果は限定的な水準であったものの、入院に関する分析は、疾患が多岐にわたることや、統計データ量、先行研究の少なさから、死亡に比べ相当の仮定をしたうえでの試算となっている。また、今後の新たなリスクの発現にも留意する必要があるものと考えている。

効果/期待される効果等

気候変動が生命保険事業に与える影響の分析・定量化は、いまだ国際的にも確立された方法はなく、各社が試行錯誤を行いながら研究・分析を行っているものと認識している。当社グループでは、各種の論文(注6)を参考として第一生命の過去実績と最高気温との相関を統計的に分析する取組みを開始しているが、今後は、各種疾患の発生に対する調査、医学的な見地からのアプローチ、海外各社の影響調査なども検討しながら、グループ全体のリスク把握に取り組んでいく。

死亡保険金・入院給付金支払増加額、収支への影響の分析
図 死亡保険金・入院給付金支払増加額、収支への影響の分析

脚注
(注1)Representative Concentration Pathways(代表的濃度経路)。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が設定する気候変動シナリオ
(注2)Network for Greening the Financial System(気候変動リスクなどにかかる金融当局ネットワーク)が設定する気候変動シナリオ
(注3)一環として、2020年度より、気温と第一生命の保険金・給付金の関係を、みずほ第一フィナンシャルテクノロジー社と共同で分析している。
(注4)IPCC第6次報告書では、将来の社会経済の発展の傾向を仮定した共有社会経済経路(SSP)シナリオと放射強制力を組合せたシナリオが使用されている。これらはSSPx-yと表記され、xは5種のSSP、yはRCPシナリオと同様に2100年頃のおおよその放射強制力を表す。SSP5-8.5は化石燃料依存型の発展のもとで気候政策を導入しない高位参照シナリオ(「IPCCの概要や報告書で使用される表現などについて」(環境省、2021年8月9日公表)に記載されている説明文書の一部を抜粋のうえ、当社で加工)
(注5)新型コロナウイルス感染症による支払増加の影響を排除するため2019年度実績を使用
(注6)例えば、Antonio Gasparrini and others, in The Lancet Planetary Health, Volume1, Issue9, Projections of temperature-related excess mortality under climate change scenarios, Pages 360-e367 December 2017

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