「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)」は、気候変動による悪影響をできるだけ抑制・回避し、また正の影響を活用した社会構築を目指す施策(気候変動適応策、以下「適応策」という)を進めるために参考となる情報を、分かりやすく発信するための情報基盤です。

インタビュー適応策Vol.33 大阪府

令和3年度おおさか気候変動対策賞で、大塚製薬〈ポカリスエット アイススラリー〉が優秀賞を受賞

取材日 2022/5/16
対象 脱炭素エネルギー政策課 気候変動緩和・適応推進グループ 副主査 三葉絵美
おおさか気候変動適応センター 環境研究部 気候変動グループ 主任研究員 安松谷恵子
大塚製薬株式会社 関西第一支店 ニュートラシューティカルズ事業部 次長 赤木大輔

最初に、みなさんの所属される組織の概要についてお伺いできますか?

三葉さん:大阪府では、府域の省エネの促進や再エネの導入拡大に向け、府民や事業者に対するさまざまな支援制度や施策を展開しております。
2021年3月には、地球温暖化対策実行計画を策定し、2050年二酸化炭素排出量実質ゼロを目指すべき将来像として、2030年の温室効果ガス排出量を2013年度比40%削減することを目標に掲げています。
また、この計画は、大阪府の適応計画としても位置付けており、府域における適応策についても推進しております。

安松谷さん:おおさか気候変動適応センターは、地方独立行政法人 大阪府立環境農林水産総合研究所が府から指定を受けて、令和2年4月に設置されました。当研究所は、全国でもほとんど例がない環境、農林、水産、食品の分野がひとつになった総合研究機関です。農業における気候変動への対応技術の開発や、水産業のための各種モニタリング調査なども実施しています。
そのような技術や知見などが蓄積されているほか、さまざまな調査研究機関や全国の大学、府の関係部局などとのネットワークも構築されています。総合研究機関のなかに設置された地域気候変動適応センターとして、さまざまな気候変動適応に関する調査研究、府民や事業者への普及啓発を進めているところです。

赤木さん:大塚製薬は「世界の人々の健康に貢献する革新的な製品を創造する」という企業理念のもと、疾病の診断から治療までを担う医療関連事業と日々の健康維持・増進をサポートする、ニュートラシューティカルズ関連業務の両輪で事業展開をしています。
私が所属するニュートラシューティカルズ事業部 関西第一支店は、大阪・兵庫・奈良・和歌山の1府3県を担当しており、私はソーシャルヘルス・リレーション担当として、大阪府と奈良県で活動しています。

みなさんの協働体制について教えてください。

三葉さん:大阪府は、2020年4月に、府域の気候変動適応に関する情報収集、発信の拠点として、地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所を地域気候変動適応センターに指定しました。センターの情報収集・整理分析に基づく、科学的知見や将来予測などを活用し、府域の適応策の推進を図っていくとしています。
また、大阪府では、企業や大学と協力し、府域の地域活性化や社会課題の解決に向けた取組みを進めており、大塚製薬株式会社様と大阪府は、2016年に包括連携協定を締結し、健康や教育、防災・災害対策など幅広い分野において連携させていただいております。

大阪府の気候変動影響および、適応への取り組み状況について教えてください。

三葉さん:大阪府においては、2017年12月に大阪府地球温暖化対策実行計画を改定し、気候変動の影響と、それに対する適応策を、農業や水環境、自然生態系などの7分野に整理しました。 2018年には気候変動への適応に係る影響・施策集を取りまとめ、2019年にはこの計画を大阪府の気候変動適応法に基づく適応計画に位置付けております。

安松谷さん:おおさか気候変動適応センターでは、普及啓発業務の一環として、令和3年度に暑さ対策セミナーを実施しました。教育、福祉、農業関係者を対象にして、気候変動に関する知見の提供や、暑さ対策技術の実例、応急処置のポイントなどを紹介しています。
また、市町村の職員を対象にした気候変動に関する講演、ワークショップの開催のほか、府民や事業者、行政関係者に向けた情報発信や普及啓発などを行っています。
調査研究に関しては、令和2年度から2年間、環境省の事業に参画し、暑さ対策として農業や建築現場でファン付き作業着の使用感などを調査したほか、気候変動が農業に及ぼす影響などを調べ、今後被害が考えられる品目について文献調査も行いました。
これらの成果は、当センターのホームページに掲載して情報発信しています。

おおさか気候変動対策賞リニューアルの経緯と、その概要について教えていただけますか。

三葉さん:大阪府では、府域における緩和策と適応策を両輪で推進していくため、2007年度より実施してきた「おおさかストップ温暖化賞」を昨年度リニューアルし、緩和策に加え、適応策に関する取り組みについても表彰することとしました。また、名称についても、おおさか気候変動対策賞へ改称しました。

昨年度は大塚製薬の〈ポカリスエット アイススラリー〉が優秀賞を受賞しました。商品をご覧になったときの印象と、取り組みを含めて今後期待される可能性などについて教えていただけますか?

三葉さん:私も飲みましたが、シャーベットとは違って流動性がある分、体の中から冷えていく感覚がありました。学生の頃は凍らせたペットボトルを学校に持って行きましたが、飲みたいタイミングにはぬるい、あるいはまだ氷が溶けておらず飲めないなど、ベストな使い方ができていませんでした。ポカリスエット アイススラリーはその点、凍った状態でも飲めますし、大塚製薬様が提唱する、活動前にあらかじめ体内を冷却しておく“プレクーリング”という手法は画期的で、熱中症対策にも大きくつながるものだと思いました。

おおさか気候変動適応センターが、大塚製薬を推薦したときのポイントについて教えていただけますか。

安松谷さん:気候変動に伴う熱中症リスクが増加するなか、効率よく水分・塩分補給が行えるだけでなく、身体の内部冷却も可能な冷凍の飲料を開発されたこと。そして、これを消防士などの活動に供給するとともに、一般に向けても広く販売を行っているということがひとつめのポイントです。
もうひとつは、この商品とともに熱中症予防や発症時の対処についての情報を発信することで、熱中症対策の効果的な普及啓発に大きく貢献しているということです。

ポカリスエット アイススラリー誕生の背景や商品化までの経緯、商品の概要や独自の製造技術についてお伺いできますでしょうか。

赤木さん:大塚製薬では熱中症への取り組みを長年にわたり行ってきましたが、地球温暖化などの環境変化や、熱中症救急搬送数が減少していない状況から、新たな解決策が必要だと考えていました。
そこで熱中症の本質は体温の上昇であることから深部体温に着目し、身体の内部から効率よく冷やすために、氷の吸熱反応を利用して冷却することを考えました。それが、このポカリスエット アイススラリーです。
これは冷凍庫で凍らせることができ、常温保存が可能で、再凍結してもスラリー状を再現できます。高濃度の個体粒子を液体に溶解・凍結させ、化学的に流動体を形成するという、大塚製薬独自の技術を開発しました。飲める氷として、冷凍しても流動性を持たせることや、風味のバランスなどは大変難しく、開発までに3年を費やしたそうです。
開発当初は産業医科大学、北九州市消防局と協働して、消防隊員を始めとする暑熱環境下で働く方を想定して製品化しましたが、一般の人たちにも役立つ設計になっています。

おおさか気候変動対策賞で優秀賞を受賞されたときのお気持ちについて教えてください。

赤木さん:大塚製薬の特徴でもあります、自治体と連携した活動に加えて、身体内部冷却という新しい熱中症対策を実践できる製品としてポカリスエット アイススラリーが注目されたことは大変うれしく思っております。
私たち単独では不可能なことでも、自治体と連携することで地域の組織・団体との連携も可能になり、広く生活者に熱中症情報を届けられるようなプラットフォームが構築できると考えています。そういう意味でも、地域が連携する必要性は大きいと感じます。

気候変動適応に関して、大塚製薬の社員における理解促進、意識向上については、どのような工夫をされていますでしょうか?

赤木さん:個人的にこれまで、熱中症対策はさまざまな健康課題のなかのひとつという認識でいました。ところが、大阪府エネルギー政策課との公民連携を通じて、地球温暖化などの気候変動による環境問題でもある、という認識に変わってきたのです。そして、地球規模の大きな問題ということで、まずは地域レベルの「適応」を推進していけるように、地域連携の必要性を自治体に働きかけるようになりました。また、それを社内でもしっかり情報発信するようにしています。

赤木さんは、熱中症対策アドバイザーという肩書きをお持ちですよね。

赤木さん:これは、環境省が後援している〈熱中症予防声かけプロジェクト〉の認定制度なんです。どなたでも養成講座を受けてアドバイザーになることができますが、大塚製薬が環境省と連携し、普及していこうという流れになっています。この認定制度を、弊社社員が受けることはもちろん、全国的に普及することで、熱中症予防啓発に貢献してくださる人材育成をしていこうというご提案をしているところです。

熱中症対策に関しては、これからの季節、気候変動適応センターとしてもより強化していく予定でしょうか?

安松谷さん:そうですね。熱中症はもちろんのこと、一般の方々に対して農作物や水産物の気候変動による変化、そしてそれらがみなさんの日々の生活に関わっているということを発信していきたいと思っています。
私たちは総合研究機関ですので、農業や水産関係で予測されることへの対応は行ってきました。しかし、府民への発信がまだ弱いという点があります。今後は生産者に対する働きかけだけでなく、気候変動適応センターという名前のもと、府民のみなさまへの普及活動を行っていきたいと思っています。

大阪府と、市町村との連携はどのように進められていますか。

三葉さん:大阪府では、大阪市とともに、ヒートアイランド対策の考え方や目標、取り組み内容を定めた〈おおさかヒートアイランド対策推進計画〉を2015年3月に策定しました。この計画ではふたつ目標をかかげており、ひとつは、住宅地域の夏の夜間の気温を下げて、地球温暖化の影響を除外した熱帯夜日数を2000年より3割減らすこと。もうひとつは、既存のクールスポットの活用や新たな創出により、屋外空間における夏の昼間の暑熱環境を改善することです。人工排熱の低減などの取り組みである緩和策と、暑熱環境の改善などの適応策を両輪で推進しています。

今後の展望を教えてください。

三葉さん:大阪府は地球温暖化とヒートアイランド現象の影響により、世界と比べても早いスピードで温暖化が進行しており、加えて人口や産業が集積している都市部ですので、府民の生命や産業に対する気候変動リスクが他の地域より高いと思っています。今年度受賞された大塚製薬株式会社様に続きまして、今年度も府域の事業者の優れた適応策を表彰し、PRすることで、府域全体における事業者の気候変動適応への取り組みを促進させていきたいと思います。

安松谷さん:今後も普及啓発業務として、教育関係者や福祉関係者を対象に暑さ対策セミナーを実施し、気候変動に関する知見の提供や暑さ対策技術の実例、応急処置のポイントなどを継続して紹介していきます。
今年度は農業関係者を対象に、気候の将来予測のデータから、今後起こりうる農業被害とそれに対する対策の紹介や、作業現場での暑さの対策技術に関するセミナーの開催などを予定しています。また、府域の市町村の職員に向けても、気候変動に関するセミナーやワークショップを引き続き開催していきます。
調査研究に関しては、府域において暑さ指数のWBGTを計測し、結果を還元するとともに、熱中症警戒アラートの認知度向上などへ貢献していきたいです。
また、大阪は海に面しているため高潮の被害や、河川やため池が多いことから浸水被害なども想定されています。そのような防災に関しても、普及啓発に取り組んでいきたいと思っているところです。

赤木さん:地域連携プラットフォームの構築に注力し、さまざまな分野で持続可能な活動が推進されるような仕組みづくりを、積極的に行っていきたいと思っています。

この記事は2022年5月16日の取材に基づいています。
(2022年8月17日掲載(動画も同日掲載))